December 20, 2015

小川洋子著「猫を抱いて象と泳ぐ」を読んで

今年はゲームに関係する本を幾つか読みました。
表題はそのうちの一冊で、うんうんそうだなぁと納得したり感心したりしながら読んだ本です。

ある少年がふとしたきっかけでチェスを覚え、その後チェスを通じて、この世界と会話していくという話でした。
チェスを知らなくても十分に理解、堪能できると思います。

割とこぢんまりした話なのだけど、所々に綴られる少年の心象が胸にしみました。

長い間ゲームをすることを趣味にしてきましたし、昨年以来、ゲームと関わりを強めるようになってから、いろいろと思うことが増えました。そのうちの一つは「ゲームをすることが何になるんだろう。」という疑問だったりします。

ゲームを遊ぶことを、前向きに捉えたり後ろ向きに考えたり、その時々によって答えの変化する疑問なので、別に結論めいたことは求めていないつもりなのですが、最近いつも頭のなかに浮かんでいます。

そうした疑問と、この本の主人公の気持ちがピタッとくっつくことがあって、とても深い印象を残した本でした。

主人公はある日、正体を隠したまま令嬢と呼ばれる人とチェスを指します。
その時に令嬢から、あなたにチェスを教えた人がわかると告げられます。
曰く、最初に駒の並べ方や動かし方を教えてくれた人は、その後その人のチェスに指紋のようなものを授けるのだと。勇敢な指紋は勇敢なチェスを、麗々しい指紋は麗々しいチェスを、冷徹な指紋は冷徹なチェスを指すのだと。

そうだよなあ、と思いました。

チェスやゲームにかぎらず、いろいろなことは、それを最初に紹介した人や教えてくれた人の影響を受けるものです。チェスやゲームを知らない人に紹介するときや、それを楽しむ感覚を伝えた時の印象は、同時にチェスやゲームそのもの印象と混じりあって、人に記憶されていくんだよなぁと思うのです。

だからどうだ、ということではないんですけども。
まあでも、とにかくボードゲームを遊ぶときには、勝つにしろ負けるにしろ、参加者にとって面白い時間になりますようにと願うものです。

年末年始にお暇な方はどうぞ。

蛇足ですが、読み終えた後チェスがしたくなり、本棚の奥からボビー・フィッシャーのチェス入門を出してきて遊んでいます。ちょっと変わった構成の、チェスを知らない人でも楽しめる、クイズの本みたいな入門書です。こちらもおすすめですよ。

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December 21, 2011

ミレニアムⅠ 上・下 スティーグ・ラーソン

 ミレニアム1を読了。すごく売れてるミステリーだって言うので、以前にS氏から紹介してもらっていたのだが、新装版が出ていたので、ひょいっと購入。

ミレニアム1も上下に分かれており、結構なページだが、内容はもう、売れるミステリの要素がてんこ盛り。
 雑誌記者の主人公が巻き込まれる謎の事件。過去にシリアルキラーが存在していた痕跡。あからさまに怪しい大富豪の一族。ブチ切れサブキャラの大活劇。スウェーデンが舞台のこの作品で、スウェーデン国内の社会指標があちこちに掲げられたりして、リアリティを補強するあたりも憎い。

 まーでも、面白かったけど、「そんなに売れる?」って感じもした。

 ハリウッド映画のような、カットアウト・カットインをつかった複数の人物の同時描写とか、犯人特定につながるイケそうなアイデアがあっさり頓挫した後、あきらめ気味の細い手掛かりが意外にも繋がりだすあたりの展開とか、「またまた、このぉ、やるね。」とか思いつつ楽しめた。

 途中、第二次大戦を生きた老人の回想が出てくる。ナチスドイツとスウェーデンはどういう関係にあったのかが、言外に描かれており、2000年ごろの「ナチス協力についてスウェーデンが謝罪」といった記事も頭をよぎった。

お正月向け、星4つ。

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December 18, 2011

戦火の果て 上・下 デイヴィッド・L・ロビンズ

デイヴィッド・L・ロビンズといえば、映画スターリングラードの原作にもなった「鼠たちの戦争」なんかが有名ですが、この「戦火の果て」という作品も、中々壮絶で迫力のある作品でした。

物語は複数の立場の違う登場人物たちが、ほぼカットインカットオフで断片的に描かれ、それらがまとまりつつ第二次大戦の群像劇となるようなスタイルをとっている。米軍従軍記者、ソ連懲罰大隊所属兵士、ベルリンフィルの女性チェロ奏者。

物語の始まりは、1944年12月31日。舞台は、テネシー州、ヴィスワ川西岸、そしてベルリンから始まります。自分が特に感情移入できたのは、ヴィスワ川からゼーロウを超えベルリンへ到達するソ連軍兵士でした。

スターリングラード以前から参戦してきたというこの兵士が、半ば自殺を企てているかのような「英雄的」な戦果を挙げるたび、冒険活劇とはまったく異なる印象が胸に残ります。激戦を越え、ついにベルリンへ到達したとき、ソ連の大祖国戦争は勝利へと導かれていくわけですが、と、同時にスターリンによるソビエト連邦独裁継続も決定的となるわけであります。どこにも救いの無い中、この兵士が物語の終末に行う決断に胸を打たれます。

戦中の神々たる、スターリン、チャーチル、アイゼンハワーなどとともに戦史をなぞりつつ、壮絶な現場の人間たちの描写が一つ一つ胸に迫ってくる傑作です。年末休暇のの締めくくりに是非どうぞ。オススメです。

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August 12, 2011

大聖堂 上・中・下 ケン・フォレット

最近、本を選ぶのにあまり時間をかけない時がある。わざと。
平積みの本から適当に選んだのが、この話。帯にはテレビドラマをNHKが放映したとの文句があるところから、売れた話なのだろう。
余談だが、帯に書かれた、この本をオススメしてる人の中に、喜国雅彦の名前があった。よりによってキクニとは・・・。「傷天」、いや、「月光の囁き」は名作だったのう・・・。

ま、そんなわけで読みました。
いやー、満喫。舞台はイギリス、物語は西暦1135年から始まります。
プランタジネット朝前夜なのだそうです。

暴力、ロマンス、別離、友情、信仰、厄災、裏切り、戦争、法廷、諦念、再会、起死回生と、まーよくもこれだけ、詰め込みました。詰め込みすぎて、3冊になるのも無理はありません。
面白いですよ。少なくとも3冊読みたくなる面白さです。

この時代のウォーゲームは寡聞にして知りませんが、ドイツゲームには、その名も「大聖堂」というゲームがあります。物語の最後に出てくるヘンリー2世ですが、かのボードワン4世はこの人の従弟なんだそうですね。ボードワン4世といえば「クルセイダーレックス」でおなじみのエルサレム王ですね。

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永遠の0(ゼロ) 百田尚樹

ずいぶん前に読んだものですが、感想を書かずじまいだったので書いてみることに。
表題の「0」とは、零戦のことです。
そして狂言回しの主人公が追いかける人物は自分のおじいちゃん。
おじいちゃんは第二次大戦で活躍した凄腕パイロットだったが、特攻で戦死している。

最初に掲げられる命題は、「特攻と自爆テロは同じか」である。
ずいぶん乱暴な命題だが、違いを明確に論じる必要のない命題ほど言い分けるのが困難であるという、代表的なもの。
まー、そんな命題とは裏腹に、時代を追ってわかりやすく話は進む。
真珠湾、ラバウル、ガダルカナル、マリアナ、鹿屋からの特攻・・・。
私はドラマを楽しんだ。家族持ちの自分の身の上を、パイロットに重ねて読み進んだ
いやー、泣けた。泣けて泣けて仕方がなかった。

これから読む方には、是非、車の中で「何故だ!何故なんだ!」と絶叫しつつ、涙をこらえずに読んで頂きたい。
泣いた後、不思議とすっきりする。


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December 26, 2010

チャイルド’44 トム・ロブ・スミス

2週間ぐらい前に読了。恐ろしくて悲しくて、そして納得のいく結末。
面白かった。

特にスターリン時代のソビエト社会が興味深くも恐ろしく描かれており、監視と恐怖と嫉妬と裏切りの世界が印象的。ジョージ・オーウェルの「1984」を思い出します。おまけに主人公の転落振りには、どこまで落ちていくのかと、ホントにもう、何もかも信じられなくなりそうな感じ。トワイライト・ストラグルに興味のある方はぜひご一読を。近々映画になるらしい。もうなったのかな?

続編があり、主人公のその後が描かれている(「グラーグ’57」)というが、もう少し心に余裕ができてから読まないと、さすがにこっちがへこみそうなので、まだ手にとってはいないけど。

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卵をめぐる祖父の戦争 デイヴィッド・ベニオフ

本日、読了。傑作です。

時は1941年12月31日。
舞台は独軍包囲下のレニングラード。
冬に差し掛かり、薪の代わりに公園の木製ベンチが消え、
食料が乏しくなり、街から鳩の姿が消えてしまうほどだ。
主人公はロシア人少年。母も妹も郊外に疎開してしまった。

凄惨でもあり滑稽でもあり現実的でもあり、奇跡的でもある
この世の中について、わかりやすく書いてある。
恥ずかしながらラストシーンでは涙が止まらなかった。
いやー、ベニオフは「99999」を読んで以来、
尋常じゃない作家だなぁと思ってましたが
今回はきっちりエンターテイメントにはめ込んであって、
これまた脱帽です。

おすすめです。

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